背景、夏の生霊
入道雲が空を覆うように現れて、その分厚い姿を見せている。今年も夏が来る、夏の空気が肌に染み付く、僕はずっと風を待っている。
最近は、随分と夏の思い出に敏感になったような気がする。
高校、あるいは中学の、部活帰りに自転車に乗って汗を流しながら坂道を登った光景がずっと脳裏にある。
あとは、部屋でクーラーにあたりながら野球を観て、そのあと外を眺めていた時の記憶。
あの日常にどれ程の哀愁が詰まっているか、当時の俺はわからなかった。解ろうともしなかった。
純粋に夏を生きてきたのだ。流れるままに。夏の温度に溶けこんでいた。その時の記憶や、思い出が、今も俺の背後にずっとまとわりついている。
それらは、当時の温度のまま生霊となった。
生きた人間の生きた記憶が、未だ成仏出来ていない、過去の物として扱われる事を良く思っていないのだ。
揺れている夏草を掻き分けて進んだ先は、それはそれは美しい景色なんだろうか。
夏の夕暮れが美しいことなんて、誰だって知っている。高い空で雲が焼けるその瞬間は、何にも置き換える事は出来ないものだ。そのまま静かに夜になって夏は終わりに向かう。
ある日の夜、蛍が綺麗だった。