後書き

世界の隅っこ

春隣

f:id:mmmkooo:20210410121606j:plain男は殴り続けた。


「やめてください、やめてください」


そんな言葉を聞くはずもなく、女の顔は赤くなり、酷く腫れ上がり、その場には言葉に表すことの出来ない憎悪が渦巻いていた。










理想の死に方がある。 身体は老いて、ベッドに横たわる俺を晴れた日に突如開いた窓から桜の花が包み、花が消えたと思えば、俺は安らかな顔で眠っている。

そんな事は叶わない話だが、どうもこの死に方がベストな気がしてならない。



桜の木の下には死体が埋まってるなんてのはよく聞く話で、恐怖心と共に好奇心が芽生える。




春になった、春という季節は淡く綺麗な姿をしているが、どうも死にたくなる。 ポカポカした気温に柔らかい空気と青い空が、俺の希死念慮を誘い出す。


死にたい死にたいと思ってはいても、実際に死ぬ事なんてできなくて、どうにか生きる理由を探している。所詮は俺もそんな人間だ。




春風が桜を散らす情景は、美しくもあり春が終わるという寂しさもある。



春泥棒が今年も訪れている。



春の日に昭和記念公園の原に一本立つ欅を眺めながら、あの欅が桜だったらいいのにと考えていた。あれを桜に見立てて曲を書こう。どうせならその桜も何かに見立てた方がいい。月並みだが命にしよう。花が寿命なら風は時間だろう。

それはつまり春風のことで、桜を散らしていくから春泥棒である


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