春隣
男は殴り続けた。
「やめてください、やめてください」
そんな言葉を聞くはずもなく、女の顔は赤くなり、酷く腫れ上がり、その場には言葉に表すことの出来ない憎悪が渦巻いていた。
理想の死に方がある。 身体は老いて、ベッドに横たわる俺を晴れた日に突如開いた窓から桜の花が包み、花が消えたと思えば、俺は安らかな顔で眠っている。
そんな事は叶わない話だが、どうもこの死に方がベストな気がしてならない。
桜の木の下には死体が埋まってるなんてのはよく聞く話で、恐怖心と共に好奇心が芽生える。
春になった、春という季節は淡く綺麗な姿をしているが、どうも死にたくなる。 ポカポカした気温に柔らかい空気と青い空が、俺の希死念慮を誘い出す。
死にたい死にたいと思ってはいても、実際に死ぬ事なんてできなくて、どうにか生きる理由を探している。所詮は俺もそんな人間だ。
春風が桜を散らす情景は、美しくもあり春が終わるという寂しさもある。
春泥棒が今年も訪れている。
「春の日に昭和記念公園の原に一本立つ欅を眺めながら、あの欅が桜だったらいいのにと考えていた。あれを桜に見立てて曲を書こう。どうせならその桜も何かに見立てた方がいい。月並みだが命にしよう。花が寿命なら風は時間だろう。
それはつまり春風のことで、桜を散らしていくから春泥棒である
n-buna」